『夢もゆとりもあきらめない わたし時間のつくり方』

xsw23edc2008-07-11

『夢もゆとりもあきらめない わたし時間のつくり方』(金子由紀子/アスペクト)を読む。

時間術の本は出尽くした感があり、本書も「目から鱗」というわけではないのだが、本書の一番の特徴は、凡人が気軽に実行できるという観点で書かれていることだろう。つまり、四六時中ビジネス的成功へのギラギラした向上心を持っているような暑苦しいデキル人でなくたって、日常生活をゆったり過ごすための時間の工夫はできますよ、という本。そのため、ビジネス的な「成功」よりも、人とのつながりを楽しむ時間や自分一人で過ごす時間を確保することに主眼を置いている。そして、「もっとゆったり気持ちよく(中略)自分が感動できる」人生の時間を「わたし時間」と定義する。

まず、心がセカセカしなくなるための習慣として以下の4つを提唱する。
 1:「忙しい」と言わない
 2:今やっていることを確実にやる
 3:身のまわりのモノを減らす
 4:やるべきことを減らす

特に、3は容易に実感できそうだ。
モノを減らし目に入る情報を少なくすることで、精神的に時間の流れがゆったりと感じられ、物理的にも方付けの時間などが削減できる。そうして得られる「静かな空間」の最大の効用は、「頭がハッキリ」し、落ち着いて考える時間を手に入れられることだと著者は言う。確かに、出張先のホテルで過ごす時間などは、クリアな精神状態になり、本当に大事なことだけが見えてきて、長いスパンで物事を思考できるようになる。例えば、今月本当にやるべき仕事は何か、この1年で自分は何を身につけてきたか、などなど。そういう思考状態になる理由として、「日常(東京)から物理的に距離を置いたため」と今まで思っていたが、ホテルの空間が、この著者の言う「モノの少ない家」の端的な形だからなのかもしれない。だから、家やオフィスがホテルの客室のようにスッキリしていたら、日常生活での思考も劇的に変わるかもしれない。

また、「4:やるべきことを減らす」の方策として以下の3つを提唱している。
 1:人に頼る
 2:お金に頼る
 3:やらずに済ます

その他にも、「朝、起きたらすぐに手帳を見る」、ついダラダラしてしまう時間から抜け出すきっかけを技法化する、それでもダラダラしてしまうときは歩く、という趣旨の提案もあり、今日から試せそうだ。更に、「即断即決即答」「時間防衛術」「習慣を定着させる」など、既に自分が実践している方法も書かれており、それはそれで少し勇気づけられる。

もちろん、著者の提案を鵜呑みにするだけでは効果は実感しにくいだろう。自分に合う部分をうまく取り込みたい。例えば、著者は「電車の中で効率よく勉強」することを批判しているが、私は賛同できない。だから、まさに著者自身が「この世をカスタマイズする」ことを勧めているように、読者それぞれが本書で開陳された手法を自分の生活に合うようカスタマイズすればいいのだろう。

そのカスタマイズにあたって最も重要なのが、自分の価値観を明確にしておくことだ。それが、時間利用に関する方法論を駆使する際のすべての指標となる。そこで、本書中盤では、人生の中で「コレだけは絶対、やったおきたい!」を明確にしましょうと説き、目標を明確化する手順を指南してくれる。

ちなみに本書のラストで、狭義の時間術とは直接関係ないが、自分の子供の存在を徹底的に肯定する親子のコミュニケーションについて書かれている。これは、ものすごく重要な内容だと思う。ここまで読んできた200ページ以上の時間術に関する記述が一瞬で吹き飛ぶくらい、時間術などに比べて遥か高次元に位置する大切な行為だ。存在の肯定とは、親が子供に与えられる原初的にして永久的な無二の財産だろう。

こんな高次元の話題が、なぜ時間術の本の終盤に登場するかというと、著者が、時間術を駆使して有効な時間を得るのもいいが、その時間を何に投じたのか、特に、幸福を実現するために投じたのかが重要だと考えるからだろう。ということは結局、自由時間を確保した時点では、それはまだ「わたし時間」ではありえず、その時間を使った後に初めて、それが「わたし時間」であったの否かが分かるのだ。

本書自体、情報をめいっぱい盛り込んだ構成ではなく、必要最小限の手法を紹介するにとどめ、全体に「ゆとり」が実践されている。内容と体裁に一貫性が感じられるのも好感。


夢もゆとりもあきらめない わたし時間のつくり方

夢もゆとりもあきらめない わたし時間のつくり方