『額縁への視線』

『額縁への視線』(小笠原尚司/八坂書房)を読む。

広く一般の人に「額装」の世界を知ってもらおうという入門的な一冊である。

おそらく多くの人は、美術館に行っても、絵画作品そのものしか見ないだろうけれど、額縁にも目を向けてみると、こんなに深く広い世界が広がっていますよ、というスタンスで書かれた本。

前半は“通時的な視点”で、西洋と日本における額縁の起源や歴史が語られる。また額縁が西洋固有の文化かというとそうでもなく、日本にも、奈良時代から神社仏閣や茶室に「扁額」が飾られるなど額縁文化があったことも紹介し、目配りの幅が広い。

一転して後半は、筆者のパリ生活の経験をもとに“共時的な視点”で、日仏の住宅における額装や壁面装飾に関する意識の違いを描き出す。そこから、フランスのホームパーティーの慣習や、「見せる」フランス人と「しまう」日本人という比較文化論的な考察へと発展する。

そもそも、額縁という文字通り周縁的な対象について語りながら、実は時間を掛けて別の主題に言及しているという語り口自体が、フランス的な知性のあり方なのかもしれない。

雑学好きな方や、建築やインテリアなどがお好きな方にもお薦め。

額縁への視線―額装というデザイン

額縁への視線―額装というデザイン