『銭湯遺産』

『銭湯遺産』を読む。

近年、古き良き時代としての昭和30年代を舞台にした映画や、高度成長期の残り香を感じさせる工場などにスポットを当てた写真集が話題になる。全国約100軒の銭湯を豊富な写真で案内する本書も、そうした時代への憧憬を感じさせる。

しかし、写真もさることながら、調べつくされた密度の高い解説文と写真キャプションが興味深い。著者は、日本各地の1000軒以上の温泉をまわり、竣工年や改装年から、壁面のタイル絵の作者まで調べ上げている。銭湯に関する記述が、単なる郷愁の対象を越えて、一種の文化史のレベルに達している。

北海道の銭湯建築は「他地域から比べると洋式が多い」とか、湯船の位置は「東京は浴室正面の窓ぎわ。他は浴室の中心付近にある」など、全編にわたって、一朝一夕には言えない俯瞰的なコメントが説得力を持って響く。

リアルタイムで銭湯を経験したことのない年代の人々には、新鮮に映るだろう。