『白鯨 上』

『白鯨 上』(メルヴィル講談社文芸文庫)を読む。

ずいぶんと時間がかかった。
時間を忘れて耽読するページと、とても退屈なページがはっきり分かれている。6〜7割が退屈という印象。それでも、なぜか途中で投げ出すことのできない小説。
大してやることの見つからない若者イシュメールが、3年くらい捕鯨船にでも乗ってみるか、という気分で捕鯨船に乗り込む。船が出港するまでに、既に上巻の1/3くらいを費やしている。

イシュメールによる鋭い人間観察が、読者を楽しませる。
現代に引き付けて読むと、この捕鯨船が一つの企業のように見えてくる。いろんなタイプの上司と部下がいたり、出身地の違う同僚とのカルチャーギャップに驚いたりという具合。すると船長は、さしずめ社長ということになるが、この男がかなり曲者で、捕鯨という公的な目的を持っているはずの航行において、私怨に駆られた復習計画をこっそり練って突如実行に移したりする。様々なハプニングを通して浮き出る登場人物たちの個性が、活き活き描出されている。

巻末の訳者解説が面白い。訳者が指摘するような深い暗示がなかなか読み取れず残念だが、引き続き下巻に入ってみよう。
それにしても、現在の自分と同い年のときに、メルヴィルが本書を発表しているとは。