『時間と自己』

『時間と自己』(木村敏中公新書)を読む。

「時間」と「人間の性格類型」を考える上で抜群に面白い一冊。こんなに刺激的な本には、一生のうちにそう何冊も出会えない。座右の書の一つになりそうだ。ただ、理解できていない部分もあり、再読を要する。

前半は、「こと/もの」の対比から、「時間の実感」が生じる理由を解明する。特に42、43ページは圧巻。先日自分が気付いた仮説とも合致していて、勇気をもらった。
ちなみに、この「こと/もの」は、「知覚/想起」や「現在/過去」に対応しているだろう。これらの対立する二項のズレが、私たち人間の中に「時間」の感覚と「私」の感覚を同時に発生させているはずだ。

後半は一転して、「分裂病」「癲癇」「鬱病」という三つの精神病理を例に挙げ、これらの症状(あるいはこれらに似た性格類型)を持つ人がどのような時間感覚の中で生きているかを明快に指摘する。著者によれば、この三つの病理はそれぞれ、「未来」「現在」「過去」という三つの時間感覚に対応しており、患者はその時間感覚に強く縛られて生きている。詳細な指摘も、目から鱗の連続であった。
きっと、これらの病理を直接に患っていない人でも、自分自身がこの三つのどれかに分類されうると実感できるのではないだろうか。

とにかく刺激と発見に満ちた稀有な書物だと思う。「時間」と「人間の性格類型」に興味のある方にお薦めの一冊です。

時間と自己 (中公新書 (674))

時間と自己 (中公新書 (674))