『競売ナンバー49の叫び』

『競売ナンバー49の叫び』(トマス・ピンチョンちくま文庫)を読む。


主人公の女性エディパが、ある日突然、元愛人の大富豪の遺産管理執行人に任命される。それをきっかけに、いろいろな人と出会う中で、郵便制度を通して、反体制的な組織の存在を徐々に感じ始める。しかし、その反体制組織が実在するのか、それとも単なるエディパの妄想なのか、エディパにも読者にも判然としない。そういう話。
たくさんの暗示が仕組まれているようだが、解説を読まないとほとんど気づかない。


作中に、まるで作者から読者へのメッセージであるかのようなセリフが登場する。例えば、以下。
「まず水をさしておこう。あれは人を楽しませるために書かれたものだ。恐怖映画なんかと同じこと。文学なんてもんじゃない」(p.105)
「どうしてみんな(中略)こんなにテクストに興味を持つんだろう?」(p.106)
「彼は単なる偶然を、〈マックスウェルの悪魔〉の助けを借りて、立派なものに仕立てた」(p.151)
「(奇跡というものは)別な世界がこの世界に侵入してくることなんだ」(p.168)


壮大なつくり話を読んだ結果、今の僕には、さほど示唆や思考のきっかけを得られなかった。
ただ、読後に一つ感じたのは、私たちの共同体を転覆させるような敵が私たちの共同体の内部に潜んでいるのではないか、というエディパの抱く誇大妄想は、大なり小なり現実のアメリカ人も抱いているのではないかということ。イラク戦争しかり、火星人が襲来する映画しかり。
また、大実業家の民間人が、国家に対峙するほどの組織を創造(捏造)してしまうという設定は、今日のマイクロソフトやグーグルの創業者たちを連想させる。

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)