『恋愛論』

恋愛論』(竹田青嗣ちくま学芸文庫)を読む。


そもそも、恋愛の対象と性欲の対象は、どこが違うのか。という疑問があって、読み始めた。性欲を満たしてもなお持続する恋愛という感情の源泉は、いったい何なのだろうか。
その違いは、恋愛の対象には固有性があるということ。他の誰かではなく、この人でなければならないという固有性。
著者によれば、そうした固有性を生み出す条件は、「美(をはじめとする人間の徳性)」「その美やエロスが私に相応しいものであること」「(自分だけのものとして所有し味わえるかもしれないという)可能性」だという。


そして、恋愛することによって、人生が一挙に意味を持ったものであるように感じられるのはなぜか。
著者によれば、こうだ。「こんなはずではない」という大小の挫折に満ちた現実世界の向こうに、私たちはつねに「ロマン的世界」夢想している。恋人の美を通して、あるいは、「自分が自分であるという理由で他人から愛されたい」という欲望が満たされることを通して、そのロマン的世界に辿り着くことができる。
恋愛は、「この世」と「この世ならざる世界」をつなぐ回路なのだ。


このあたりは、納得の連続。
前半部の考察は、恋愛に関する考えを整理するために役立つが、その後、文学の引用ばかりで、著者の疑問や問題設定が進展しない印象を受ける。結局、著者は、本書執筆の過程でどのような思考の進展があったのだろうか。もっと短く明快に親切に書いて欲しいと感じるのは、読み手のリテラシー不足ゆえだろうか。

恋愛論 (ちくま学芸文庫)

恋愛論 (ちくま学芸文庫)