『「激安」のからくり』

『「激安」のからくり』(金子哲雄中公新書ラクレ)を読む。
読みやすいが、密度が高くて面白い本。流通ジャーナリストである著者が、激安商品の生産・流通の仕組みを説明してくれる。


簡単に言うと、次のようになる。まず、現代では製造業界において、各部品の仕様が統一され、各部品を入れ替えて使うことができるようになる。例えば、パソコンは顕著な例で、どのメーカーのCPUとどのメーカーのハードディスクを組み合わせても、同じ機能のパソコンを製造することができる。これを「標準化」という。
標準化とは、製造過程において「垂直分裂」がおきるということ。垂直分裂とは、「工程や機能ごとに複数の企業によって担当される現象」。


そのように分割された製造工程をどう扱うかによって、二つの低価格戦略が存在する。著者によれば、「垂直統合型」と「寄せ集め型」だ。
垂直統合型」とは、「小売業や製造業が主体となり、原材料の生産、調達から製造、販売までを一貫して行うことで生産・流通過程に発生する在庫を省き、コストダウンを図る仕組み」。激安ジーンズなどは、この方式で製造されるケースが多いようだ。
他方、「寄せ集め型」とは、「世界中の流通過程にある余り物を集め、空いている工場のラインを活用」して生産する仕組み。激安パソコンの製造が、この方式にあたる。
衣服はどちらの方式でも製造できるだろうが、長期的に見て品質を確保するためには垂直統合型のほうがいいだろう。


また、標準化は商品の同質化を生み、その結果メーカーは、広告戦略(ブランディング戦略)とデザイン戦略で差別化をはかり、価格をあげるしかなくなる。様々なジャンルの商品の同質化が進む限り、デザイナーや広告制作者の仕事は尽きなさそうだ。


本書を読んで、価格決定権がメーカー側から販売(及び流通)側へと移ってきたことを感じられた。実際、SPA(自社ブランドを自社の店舗で販売する形態。例えばユニクロなど)やPB(プライベートブランド)の隆盛が目立つ。


ところで本書の中に、にわかに信じがたいようなエピソードもあり、笑ってしまった。例えば、外食チェーンに原材料を提供する穀物商社は、人工衛星から世界の穀物の生育状況などを観察し、価格が下がりそうな地域やタイミングを狙っているとか。マニラ金海の漁業では、人件費の高い日本人船長の人件費を削減するため、船長が飛行機でケープタウンまで行って船に乗り込む、「現地集合、現地解散」方式をとっているとか。激安競争のためにここまでしのぎを削っているとは。。。


この激安競争が、日本では、歯止めが効かなくなりそうな気がする。一人の人間は、一日の中で、作り手にも買い手にもなるわけだから、激安競争が加熱し過ぎると、買い手であるときはハッピーかもしれないが、同時に作り手でもある自分の首を締めてしまう。それへの著者なりの処方せんも、終盤に書かれている。


「激安」のからくり (中公新書ラクレ)

「激安」のからくり (中公新書ラクレ)