『非モテ!』

■『非モテ!』(三浦展/文春新書)を読む。

大変面白い一冊。
どうして今日の社会がこれほどまでに「モテ」や「容姿」を重視するようになったのか。その背景を的確に説明している。
僕としては、「女性の社会進出」と「思考することを忌避し、瞬間的に分かるものにしか意識を向けないスピード化した社会」の二つが要因だと思っていた。それらも本書で指摘されているが、それだけではないようだ。

本書によれば、見合い結婚などの慣習や制度がほぼなくなり、「自由恋愛市場」となったことで、恋愛能力の高低による「優勝劣敗」「弱肉強食」が進行し、「モテ格差」が広がった。そして、この「モテ格差」の根底には「性格格差」があり、「モテない男性は、自己主張が弱いのではなく、相互共感能力が低い」(p83)と考察する。さらには、「モテない男性や容姿に自信のない男性が非正社員になりやすく、必然的に結婚しにくい」(p107)という。
その背景の一つを、「お笑い文化」「モテる標準がSMAP」(p125)は、バカバカしいが、案外当たっていると思う。
また、現代が「プレゼン社会」になったこと。「現代の若者は自己肯定感が不足している」(p135)から、他人からの評価が過剰に気になるようになったこと。「友達関係以外の人間関係が希薄にな」り、「すべての人間関係が友達関係的になっ」(p146)たことなども指摘されているが、その通りだろう。特に、「友達文明は店で物を売る側と買う側の関係にも浸透してきている」(p151)には膝を打った。

三浦氏が、最近の若者の「そうなんですね」という相槌に違和感を表明しているが、まったく同感。(という僕自身、よく「そうなんですね」を使ってしまい、その言葉を使った瞬間に毎回まるで自分が自分でないような気持ち悪さを感じているのだが。)

本書は、タイトルの軽さや新書という体裁とは裏腹に、核心的なことに触れている。例えば、「個人の自由な選択を原理とする相対主義が進み、相手を承認すれば自分が承認されにくくいという逆説が拡大」(p160)した社会における人々のリスク回避の心理についても説明している。これは、現代の若者の生きにくさの根本的要因の一つだろう。

第六章は佐藤留美さんという人が書いているが、この章もとても面白い。80年代以降の男女関係の変化を、日本経済の盛衰と女性の社会進出を軸にコンパクトに描いている。そうだそうだと頷きつつ、笑ってしまう。ただ、この章の終盤で、女性憎悪をネット掲示板に書いたり男同士でつるむ「毒男」を「男たちの反乱」と称しているが、この解釈はまったく逆で、反乱どころか、彼らは負ける前に自由恋愛市場から逃避し、傷つくことを恐れて「女には興味がない」と嘯いているだけであり、よりいっそう内向的になっただけと見るべきではないか。

いずれにしても、20〜40歳代くらいの人には大変面白いのではないだろうか。一つに気になるのは、もしかすると、本書が描いている「モテ」の状況を体感的に理解している読者は「なるほど、そうだ」とおもしろがるし、体感的に理解していない読者はあまりリアリティーを感じられないかもしれない。だから「モテ/非モテ」文化の外部にいる新しい読者にどのくらい本書が届くのか興味がある。

男性受難の時代 非モテ! (文春新書)

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