こんにちは。
■『シンプル族の反乱』(三浦展/KKベストセラーズ)を読む。
大変明快で濃密な一冊。現代の若者の消費動向を的確に説明していると思う。おそらく僕自身も「シンプル族」の傾向を持っているせいか、読みながら何度も膝を打った。
「シンプル族」とは、団塊ジュニア以降の世代で、ある共通の価値観やライフスタイルを持つ人々を指す。そのライフスタイルとは、「物をあまり消費しない。ためない」「手仕事を重んじる」「基本的な生活を愛する」といったもの。
その他にも、シンプル族は以下のような志向性を持つ。「エコ志向」「レトロ志向・和志向」「テレビをあまり見ない」「新しい物より古い物を好む」「物にストーリー性を求める」「クルマを好まない」「シンプルライフに賛成」「出世には関心がない」「本物志向」など。
確かに、僕が仕事で商業施設の取材をしていても、シンプル族の価値観の台頭を感じる。だから、「リノベーション特集」や「アンティークアイテム特集」を企画したのだし、「農」をテーマにした飲食店を取材したりしている。
本書の冒頭では、前世代の「モダン派」と比較しながら、シンプル族の特徴が説明されている。モダン派は物質主義で、トレンド、進歩、成功、スピード、富裕、所有といった価値観を志向している。例えば、会社内で若手が上司や先輩を指して「あの人はバブリーだよね」などと言っているのを聞いたことがあるだろう。あれは、シンプル族がモダン派に対して感じている違和感の表明である。
こうしたシンプル族の台頭は、不景気にも起因しているだろうが、それだけではない。著者は、「物を消費し、所有することが、かつてのように喜びにつながらなくなってきた」という。その通りだと思う。だから少々景気が上向いたとしても、シンプル族の増加は止まらないだろう。
生まれた時から、物質的にほとんど欠乏感を持ったことのない世代の人々は、大量生産・大量消費・大量廃棄のライフスタイルに嫌気がさしているのだ。さらに彼らは、おそらく父親世代を見て、あくせく働いてきた結果、あまり趣味も楽しめず、子育てにも参加できず、会社関係以外の友人もあまりいない生き方を幸せだなどと感じられないのではないか。総じてシンプル族が増加する背景には、近代社会への満足と諦めがあるように思う。
こうした人々は、日本だけでなくアメリカにもいて、「カルチュラルクリエイティブス」「ボボス」などと称されているらしい。
さらに本書の終盤で、著者はマーケットリサーチャーらしく今後の商品開発のヒントも提示している。それは、無印良品に何かをプラスした「無印良品プラス」。「モレスキン」「BOSEウェーブミュージックシステム」「ユニクロ」などがその例だ。
また、今後、「消費」から「共費」へとシフトするという。ブックオフやヤフオクも共費の一形態だろうか。アメリカでも『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』(レイチェル・ボッツマン他/日本放送出版協会)などという本が出版されているし、ヨーロッパでもだいぶ以前からカーシェアリングも行われているから、共費は世界的な動きかもしれない。
そして、シンプル族が増えれば、日本的なものを好む傾向も強まるそうだ。だから最近、著者は『愛国消費』なる本も出した。
僕自身、シンプル族の人々が志向する価値観には基本的に賛成である。しかし、一つ気になることがある。それは、シンプル族の性質を持つ人々が、ときに「偏狭さ」「視野の狭さ」「抽象的な思考や超越的な思考をすることへの忌避」「他国の文化への興味の低下」「政治への無関心」という特徴を持っているように見えることだ。おそらくそれは当然の流れだ。なぜなら、自分が実感できる生活圏を超えるような広い世界の出来事について知り、その構造を理解する(抽象的なレベルで把握する)という行為は、一種の「所有」だからだ。把握するということは所有することなのだ。「所有すること」への欲望がなくなれば、「広い世界の出来事について知り、その構造を理解すること」への欲望もなくなるからだ。先に書いた「近代社会への諦め」の負の側面だと感じる。
ちなみに、シンプル族のような消費者は、『「嫌消費」世代の研究』(松田久一/東洋経済新報社)や『欲しがらない若者たち』(山岡拓/日経プレミアシリーズ新書)でも分析されている。
- 作者: 三浦展
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2009/07/09
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