『免疫の反逆』(ドナ・ジャクソン・ナカザワ/ダイヤモンド社)を読む。

免疫の反逆

免疫の反逆

昨日、街の書店の棚で、「自己免疫疾患はなぜ急増しているか」という本書の副題に強烈な印象を受けて手に取った。2年前に医師から「自己免疫疾患」という呼称とその概要を聞いて以来、この疾患に関心を持っていた。
自己免疫疾患は、すべての現代人(とりわけ先進国で生活している私たち)にとって、他人事ではない。アメリカでは、国民の12人に1人、特に女性の9人に1人が発病するという。にもかかわらず、患者は、「正しい診断が下るまでに平均六人の医師を転々としている」(P.35)。
自己免疫疾患とは、1型糖尿病、関節リウマチ、重症筋無力症、強皮症、クローン病など、100種類近くある疾患の総称だが、それらの疾患には共通点がある。「自己免疫疾患の場合、免疫細胞は、自分の健康な細胞と、からだに侵入する細菌やウイルスなどの異物との違いを読み取る能力が損なわれ、異物を無力化するだけでなく、味方の誤爆の如く、自分の健康な組織までも破壊し続けるようになる」(P.24)
 
ジャーナリストである著者自身も、自己免疫疾患の一つ、ギランバレー症候群に侵されている。
おそらく多様な要因が作用しているため、簡単には因果関係を証明できないことを認識しつつも、いくつもの研究結果を参照しながら著者は、自己免疫疾患の急増の原因が、水銀、鉛、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)、着色料、保存料、添加剤などの環境毒物や化学物質にあるのではないかと指摘する。
では、どういうメカニズムで発症するのか。大まかに言うと、こうだ。通常、免疫システムは、体に侵入した感染病原体などに対して機能する。ところが、体が環境化学物質の猛攻を受けると、免疫システムが常時働き、「エンジン全開」状態になり、制御スイッチがオンのままになり、オフに戻らなくなる(P.194)。事態の真偽は分からないが、あり得そうだ。
 
しかし、まだ自己免疫疾患を判別できる医師は、まだそう多くないという。また、本書で詳述されているニューヨーク州バッファロー市の産業廃棄物によるループス患者激増のエピソードを見られるように、地方自治体や企業は、環境汚染と自己免疫疾患の関係を頑なに認めない。
であれば、私たちは、できる限り自衛するしかなさそうだ。司法においては、「疑わしきは罰せず」が原則だが、環境毒物や化学物質においては、疑わしきは摂取せず、の方が良いのではないか。その意味で、一般の読者向けに自己免疫疾患を分かりやすく概説した本書は、大きな価値があると言えそうだ。
 
今のところ自己免疫疾患に関係のない方々にも、「第6章 ライフスタイルを見直そう」の章だけでも読んでいただきたい。
翻訳もとても自然で読みやすい。
 
自己免疫疾患のメカニズム、身の回りの化学物質、「腸管壁浸漏症候群」などを知ったことは収穫だった。