『壁』(安部公房/新潮文庫)を読む。

連続的な短編で構成される小説作品。 夢か現実か分からぬ幻視のようなシチュエーションがめくるめく展開される。 シュールレアリスムの強い影響を感じる不条理な世界。 極度にロジカルたろうとする『他人の顔』の作者と同じによる作品とは思えないほど、異な…

『小松左京セレクション1.日本』(河出文庫)を読む。

本書は、いくつかの長編のエピローグやあとがき、そしていくつかの短編とで構成されている。 直接的に戦争を題材にした「地には平和を」「戦争はなかった」などの短編だけでなく、「物体O」「日本沈没」などの甚大な災害によって日本が壊滅する作品の中にも…

『建築の解体』(磯崎新/鹿島出版会)を読む。

なんと濃密な書だろう。発刊から40年近くを経た書物ですが、いま読んでも抜群に面白い。脚注の一つひとつまで充実しており、恐ろしい密度です。 近代建築と現代建築に関する基礎的な予備知識がないと読みにくいかもしれませんが、文章自体は明快で、建築を専…

『他人の顔』(安部公房/新潮文庫)を読む。

顔という社会的な記号は、どのように機能しているのか。私たちの日常生活やコミュニケーションは、顔にどのように支配されているのか。そんな顔の意味を、顔を失った主人公を通して考えてみるという、思考実験の様相を呈した小説です。 小説というより、ほと…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹/文藝春秋)を読む。

読んでよかった。出会ってよかった。そんな作品でした。 私は、赤鉛筆で線を引きながら本を読みます。小説を読む時でも同様です。本書を読み終えて、見返してみると、なんと、ほぼすべてのページに一箇所以上の赤線を引きました。宝物と呼べる一冊になるかも…

『舟を編む』(三浦しをん/光文社)を読む。

この作品に引き込まれる人と引き込まれない人、両者は大きく分かれるのではないか。それが、読後感です。なお私は、ある程度引き込まれました。 では、なぜそうなるのか。 その理由を解明するために、「気に入った点」と「気に入らなかった点」を一つずつ挙…

『解錠師』(スティーヴ・ハミルトン/ハヤカワ文庫)を読む。

強烈に引き込まれた。 分厚い長編だが、後半は一気に読んでしまった。読まれる方には、週末や連休など、時間のある時に読み始めることをオススメしたい。 主人公の青年マイクルは、二つの才能を持っている。一つは、絵を描くこと。もう一つは、鍵を開けるこ…

先ほど、机の上に積んであった本から1冊取り出して、なんとなく読んでみた。スタニスワフ・レムというポーランドのSF作家が書いた『虚数』という作品である。

『虚数』は、「実在しない書物」の序文集という、そもそも人を食ったような笑える企画なのだが、その中の一遍、「エルンティク」という本(もちろん実在しない)の序文が抜群に面白い。 「エルンティク」は、アマチュア細菌学者が書いた研究報告の本である。…

磯崎新著『建築の解体』を再読中。

発刊から40年近くを経た書物だが、いま読んでも抜群に面白い。脚注の一つひとつまで充実しており、恐ろしい密度。 特に、セドリック・プライス(1934年生まれのイギリスの建築家)に関する記述には、後に磯崎氏が仙台のコンペで審査委員長として提示した「メ…

『フォトリテラシー』(今橋映子/中公新書)を読む。

4年ほど前に購入し、いつか必ず読もうと思いながら書棚に置いておいた。 本書で語られるのは、芸術としての写真作品ではなく、報道写真。報道写真をどう見るべきかのヒントが濃密に展開される。 写真を撮ることや観ることは好きだが、そもそも写真をどう見れ…

『オラクル・ナイト』(ポール・オースター/新潮社)を読む。

オラクル・ナイト作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/09メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 50回この商品を含むブログ (42件) を見る なんと主人公のシドニー・オアは、重病から帰還した病み上がりの34歳。…

『屍者の帝国』

屍者の帝国作者: 伊藤計劃,円城塔出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2012/08/24メディア: 単行本購入: 43人 クリック: 1,717回この商品を含むブログ (191件) を見る ◆『屍者の帝国』(伊藤計劃+円城塔/河出書房新社)を読む。 読み終えて、思う。 私た…

『表現の技術』(高崎 卓馬/電通)を読む。

表現の技術―グッとくる映像にはルールがある作者: 高崎卓馬出版社/メーカー: 電通発売日: 2012/05/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 26回この商品を含むブログ (8件) を見る クリエイションの技法に関する分野の本には、良書が少ないように感じる。そ…

『都市と消費とディズニーの夢』(速水健朗/角川oneテーマ21新書)を読む。

都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代 (oneテーマ21)作者: 速水健朗出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2012/08/10メディア: 新書購入: 6人 クリック: 86回この商品を含むブログ (28件) を見る都市…

『免疫の反逆』(ドナ・ジャクソン・ナカザワ/ダイヤモンド社)を読む。

免疫の反逆作者: ドナ・ジャクソン・ナカザワ,石山 鈴子出版社/メーカー: ダイヤモンド社発売日: 2012/03/01メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (7件) を見る昨日、街の書店の棚で、「自己免疫疾患はなぜ急増しているか」という本…

コミック『天才柳沢教授の生活 32巻』(山下和美/モーニングKC)を読む。

天才 柳沢教授の生活(32) (モーニング KC)作者: 山下和美出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/12/22メディア: コミック クリック: 3回この商品を含むブログ (8件) を見るここ数カ月、朝日新聞の夕刊の書籍類の広告欄に、ときどきこのコミックの短いバージョ…

『第四の手(上・下)』(ジョン・アーヴィング/新潮文庫)を読む。

なんて素晴らしい小説だろう。出会えてよかった。素直にそう思える小説だ。これは、今までに僕が出会ったどの小説にも似ていなかった。第四の手〈上〉 (新潮文庫)作者: ジョンアーヴィング,John Irving,小川高義出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/11/28メ…

『1000%の建築』(谷尻誠/エクスナレッジ)を読む。

1000%の建築作者: 谷尻誠,須山奈津希出版社/メーカー: エクスナレッジ発売日: 2012/03/09メディア: 単行本(ソフトカバー) クリック: 3回この商品を含むブログ (5件) を見る建築家、谷尻誠氏の創作論、エッセイ、自叙伝。とてもハッピーな気持ちで興味深く…

『建築プロフェッションの解法』(高橋正明/彰国社)を読む。

建築プロフェッションの解法 (建築文化シナジー)作者: 高橋正明出版社/メーカー: 彰国社発売日: 2011/12/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 47回この商品を含むブログ (2件) を見るこれは、最高に面白い、若手建築家らへのインタビュー集だ。 建築の分…

『Self-Reference ENGINE』(円城塔/ハヤカワ文庫)を読む。

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)作者: 円城塔出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/02/10メディア: 文庫購入: 16人 クリック: 312回この商品を含むブログ (130件) を見るまだ全部読み終えてはいないのだけれど、ちょっと大胆な(そして、もしかす…

『隠れた脳』(シャンカール・ヴェダンタム/インターシフト)を読む。

隠れた脳作者: シャンカール・ヴェダンタム,渡会圭子出版社/メーカー: インターシフト発売日: 2011/09/10メディア: 単行本 クリック: 23回この商品を含むブログ (7件) を見る抜群に面白かった。 サイエンスライターによる、人間の無意識を扱った本。 エキサ…

『社会は絶えず夢を見ている』(大澤真幸/朝日出版社)を読む。

社会は絶えず夢を見ている作者: 大澤真幸出版社/メーカー: 朝日出版社発売日: 2011/05/18メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 3人 クリック: 37回この商品を含むブログ (19件) を見るここ数年、サブプライムローン問題やリーマンショック、それに続く世界…

『東京ロンダリング』(原田ひ香/集英社)を読む。

読み始めると、作品の中に流れる空気に強く引き込まれ、読むのをやめられなくなる。そんな小説だった。柔らかくてぬるい空気が漂う小説が好きな方には大変オススメの一冊だ。 主人公の内田りさ子は、「ロンダリング」を生業とする32歳の女性。 ロンダリング…

『他者と死者』(内田樹/文春文庫)を読む。

とても気に入った本。日頃のビジネスで硬直してしまった脳を揉みほぐしたい人に大変オススメの一冊。 本書に限らず常に、内田樹さんはおそらく、「何か」について考えるというよりもむしろ、「何かについて考える際の考え方」について考えている。あるいは、…

『善人ほど悪い奴はいない』(中島義道/角川oneテーマ21)を読む。

「叱り芸」「罵倒芸」と言える著者の芸風は、相変わらず安定しており、中島ファンには気持よく読める一冊。 『ツァラトゥストラ』などニーチェの著作と伴走しながら、現代日本に跋扈する「善人(弱者)」を糾弾しまくる。 ここで言う「善人」とは、自己保身…