先ほど、机の上に積んであった本から1冊取り出して、なんとなく読んでみた。スタニスワフ・レムというポーランドのSF作家が書いた『虚数』という作品である。

虚数』は、「実在しない書物」の序文集という、そもそも人を食ったような笑える企画なのだが、その中の一遍、「エルンティク」という本(もちろん実在しない)の序文が抜群に面白い。
「エルンティク」は、アマチュア細菌学者が書いた研究報告の本である。この細菌学者は、なんと、バクテリアに言語表現を教えるという壮大な実験を始める。そして、それに成功してしまい、もしかするとバクテリアが未来予知もできるハイレベルな知性を持っている可能性が描かれる。
詳細な説明を省きつつも、科学的な雰囲気の説明を付け加えているので、研究プロセスの描写がリアルだ。
おそらく読む人は、読み進めながら、「これは、ありえないだろ」と「いや、可能性がゼロとは言えない」の両極の間に宙吊りにされた気分を味わう。例えて言うなら、ジョークは、笑いながら言われると面白くないが、本気で言われると面白い。そんな本気のジョークを聞いているような気分になった。わずか18ページくらいなので、すぐ読める。オススメです。
ちなみに、スタニスワフ・レムの作品でも最も有名なのは、映画化もされた『ソラリス』だろう。そう、勘のいい方はお気づきだと思うが、「エルンティク」に登場する超知性的なバクテリアは、人類をはるかに凌駕する知性を持つ惑星ソラリスと似ているのだ。知的バクテリアソラリスも、得体のしれない知的活動を勝手に行うのみで、人間の理解を拒絶し、人間とのコミュニケーションが不可能である点も似ている。
 
それにしても、年末に知的なジョークで楽しませてもらった。
 

虚数 (文学の冒険シリーズ)

虚数 (文学の冒険シリーズ)