『壁』(安部公房/新潮文庫)を読む。

 
連続的な短編で構成される小説作品。
夢か現実か分からぬ幻視のようなシチュエーションがめくるめく展開される。
シュールレアリスムの強い影響を感じる不条理な世界。
極度にロジカルたろうとする『他人の顔』の作者と同じによる作品とは思えないほど、異なる世界観。
 
読み始めには、この不条理で予測不可能な世界観に引き込まれたが、読み進めるにつれて退屈になってきた。なぜだろうか。本作品において作者は、おそらく、小説という創作形式をとおして、「不条理」「脈絡の欠如」「意味の不在」「偶然性」を作品化することに挑戦したように見える。
仮に、世の中に存在する小説を「意味や意図のある作品」と「意味や意図のない(それらを意図的に排除した)作品」の二つに分けてみる。すると、ほとんどすべての小説は前者だ。『壁』は後者だろう。「意味や意図のある作品」において、作者が生みだす意味や意図のバリエーションはほぼ無限にありそうだ。だから読者は、その意味や意図に対して考えを巡らせることができる。しかしながら、「意味や意図のない(それらを意図的に排除した)作品」においては、その作品の意味(存在意義)は、「意味や意図のある作品」から脱したこと自体にある。どんな形で意味や意図から脱しようと、その作品はワンパターンの印象を与える。安部公房シュールレアリスムをどの程度参照したかは分からないが、シュールレアリスム的な作品の限界が、このワンパターンさにあるように思える。
「意味や意図のない(それらを意図的に排除した)作品」は、たった一回しか使えない解決策なのかもしれない。
 
 
〈勝手に採点〉
・登場人物たちの魅力 ★★☆☆☆
・ストーリー展開 ★★★☆☆
・設定(時代、場所、状況等) ★★☆☆☆
・メッセージ性 ★★★☆☆
・文章の魅力 ★★☆☆☆

壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)