『小松左京セレクション1.日本』(河出文庫)を読む。


本書は、いくつかの長編のエピローグやあとがき、そしていくつかの短編とで構成されている。
 
直接的に戦争を題材にした「地には平和を」「戦争はなかった」などの短編だけでなく、「物体O」「日本沈没」などの甚大な災害によって日本が壊滅する作品の中にも、著者の戦争体験が色濃く反映されているように見える。それにしても、大地震津波原発事故によって実際に日本の国土の一部が壊滅的な被害を受けた現在、著者が描く作品世界は、大変リアルに感じられる。
 
また、「御先祖様万歳」の中に登場する次のセリフが、いくつかの作品に共通するモチーフになっているようだ。「現在は過去の直接の結果でなく、たまたま実現された可能性の一つにすぎません」(P.145)
 
小説という創作形式を通して戦後の日本社会を考察することも、著者の目的の一つかもしれない。上記のような極限状態を設定することによって、あるいは、タイムトラベルものの作品で未来や過去の人物を登場させることによって、現代日本社会の特質をより明快に描出している。
 
巨匠の洞察力、想像力、構成力に圧倒されつつ、日本社会について考えてみたい人には、オススメの一冊。設定こそ壮大だが、どの作品も、堅苦しくなく読みやすい。
 
なお、本書の作品群にカラッとした明るさが通底しているのが印象的だった。小松左京氏は明るくユーモラスな人物だったのだろうか。同じく高度成長期の日本社会に独自の構想力で疑問を投げ掛けた小説家として、安部公房の名が思い浮かぶが、安部氏の作品には、小松氏の作品と反対に、暗く陰鬱な雰囲気が漂っている。


小松左京セレクション 1---日本 (河出文庫)

小松左京セレクション 1---日本 (河出文庫)