■北京と東京に事務所を構え中国全土を中心に活躍する建築家S氏の取材で、ライターT氏と東京・東雲へ。
中国のスピード感とスケール感の中で現地クライアントと渡り合っている方なので、デキるビジネスマンタイプの方かと想像していたところ、言葉を選びながら大変穏やかに丁寧に語ってくださる。日本と中国という二つの都市を体験してきたことから、「無秩序で乱雑に広がる悪い意味での多様性」という日本の都市の特徴と、「同じデザインの建物を大量にコピーペーストしてつくられた街並みが生み出す悪い意味での統一感」という中国の都市の特徴にヒントを得て、両者を融合させプラス面に転化させ、デザイン手法として成立させようと挑戦されている。北京でS氏の手掛けた大型集合住宅を見て、「統一感と多様性が絶妙なバランスを保っている」と感じたが、そういう思考に支えられていたのかと知り、とても納得。
更に、「中国ならではの設計」や「中国だからこそできるデザイン」を実現したいと語る。それは、即物的に風水や竜の絵柄を使うとか、そういうことではない。例えば、彼が試みるのは、図面に描けないような複雑な三次元曲面を用いた造形の店舗デザイン。こうした複雑な造形は、施工会社の人々が鉄骨やFRPを用いて手作業でつくるので、大変な手間と時間がかかる。同じデザインを日本で実現しようとしても、人件費が高くて、不可能だ。つまり、中国の人件費が低いという事情が、この造形を可能にしている。だから、これは「中国だからこそできるデザイン」なのだという。
その他、100万平米の集合住宅群のプロジェクトを一人の若手建築家が手掛けられるという設計環境も、中国ならではだという。その広大な規模を利用したデザイン手法も思案中なので、今後のS氏の活躍がますます楽しみである。
「中国では憤る出来事にもたくさん直面するが、それでも中国は、建築家が高いモチベーションで仕事をできる国だ。だから僕は中国で仕事をしている」「日本のメディアの報道を見ていると、中国の悪い面が取り沙汰されるが、一方で、中国のごく一部のエリートたちの能力は世界レベルで見てもスゴイ。ビジネス界でもデザイン界でも、彼らの動きをもっとよく観察しておくべきだろう」という言葉が印象的。
他にもたくさん面白いお話が出たので、8月号記事をどうぞご期待ください。(上記の話は今回の記事には、おそらく出ない話です。記事のために伺ったのは、ある角度からテーマを絞って伺ったので。)