「結婚式教会」の誕生

『「結婚式教会」の誕生』(五十嵐太郎、村瀬良太/春秋社)を読む。

近年、日本で目立つウエディングチャペル(著者はそれを「結婚式教会」と呼ぶ)に関する研究書。

ウエディングチャペルが「写真のための空間」であることが指摘されていた。確かに、先日、ウエディング施設特集の取材でいくつかの施設を見たり、設計者さんらに話を聞いたときも、二つの意味でウエディング施設が写真のための空間と化していることを実感した。一つは、結婚情報誌に魅力的な写真として掲載されるかどうか。もう一つは、挙式当日に、ウエディングドレスが美しく見えるような写真を撮ってもらえる空間であるかどうか。

また、本書によれば、チャペルのデザイン様式としては、ゴシック様式が人気のようだ。ところが、学術的に見れば、ウエディングチャペルで実現されるゴシック様式は、まがいものも少なくない。そこで、著者は建築史の専門的な視点から、それらのおかしな様式建築にツッコミを入れている。

更に、こうした、批評性を欠いて、イメージ消費に迎合した結果、外形だけがポストモダンのようなデザインになってしまった建築物を、著者は「なんちゃてポストモダン」と命名している。考えてみれば、ウエディング施設に限らず、商業施設で「なんちゃてポストモダン」の空間に出会うことは少なくない。

その他、ウエディングチャペルの数の人口当たりの密度が、東京や神奈川では全国平均の半分だが、栃木や群馬では全国平均の倍の密度であるという調査結果も披露されており、地域性を考える上でも興味深い。その他、結婚式や教会の歴史も概観している。

日本人の暮らしにはキリスト教の文化が根付いていないこと、いまだ西洋への憧れが強いこと、更に90年代初頭に登場した結婚情報誌などのメディアが強大な影響力を持ったことなど、いくつもの要因が重なって、ヨーロッパの洋式建築が表層的に輸入され、舞台の書割のような不思議な建築が乱立したのだろうということが見えてくる。日本文化論になっていて、面白い一冊だった。

ちなみに、「月刊 商店建築」も何箇所かで引用されていたが、「SHOTO GALLERY」や「清野燿聖」という固有名詞に誤字脱字が見られた。そこから商業建築のポジショニングが透けて見えてくると感じるのは、あまりにうがった見方だろうか。

「結婚式教会」の誕生

「結婚式教会」の誕生