読みやすく、発見が多く、とても面白い本であった。
脳科学者である著者が、多くの実験結果から、「へえ〜」と思わせるエピソードを次々披露してくれる。そんな個々の話も面白いが、本書の大きなテーマは、「自由意志」の話と「脳機能の使いまわし」の話だろう。
前者に関しては、「選択盲」「錯誤帰属」「パターンコンプリーション」などの例が登場する。人の身体は、何かを見たり聴いたりした際の外界からの刺激に対して、無意識のうちにアクションを起こしている。例えば、人やモノを好きになったり、何かを握る力が強くなったり。そして人は、そういうアクションを起こした理由を事後的にでっちあげて、「自分の意志でそれをした」と考える。そんな無意識の作用が様々な実験から明らかになる。
脳や身体は意外にシンプルな反応をしているだけであって、複雑な「心」や「気持ち」は後からつくられるというわけだ。
ここで読者は、「じゃあ、人間に自由意志ってあるのか」と思うだろう。それに対して著者は、人間にあるのは、「自由意志」ではなく「自由否定」だという。なるほど。
後者の「脳機能の使いまわし」の話題では、例えば、物理的な傷を負ったときに機能する「痛覚システム」が、「心の痛み」を感じる場合にも適用されているなど、興味深い実験結果がいろいろ出てくる。つまり人間は、脳や身体に備わっているシンプルな仕組みを使いまわすことで、複雑な「心」や「私」を生み出しているというわけだ。
すると、ここで読者は、「じゃあ、『単純な脳』が、脳と『私』のややこしい関係について考えているのは、どうしてなのだ」と思うだろう。その疑問に対しても、著者は答えを用意してくれている。その答えは、「リカージョン(再帰性)」だという。
そんなわけで、読者が抱くであろう疑問に対して、著者は先回りして答えを用意してくれており、本書の構成に大変感心した。
その他、「自分の身体の表現を通じて自分の内面を理解する」という話が印象的であった。ならば、とりあえず笑ってみれば、気分が楽しくなるはずだ。日常生活でも応用できるかもしれない。
- 作者: 池谷裕二
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2009/05/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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