『黒猫/モルグ街の殺人』

『黒猫/モルグ街の殺人』(ポー著、小川高義訳/光文社古典新訳文庫)を読む。


「凶暴性や残虐性」と「良心や理性」という人間の内面で葛藤する二極のバランスを描いた作品が多かった。生と死の境界について触れた作品もあった。
短編「ウィリアム・ウィルソン」では、主人公と同姓同名の男が主人公の良心を表象しており、その比喩表現がいささか単純であったり、「モルグ街の殺人」の種明かしでは、「そんなこと、ありえないだろ」とツッコミたくなるような突飛な内容だったりするが、150年以上前に書かれたことを考えれば、十分に完成度が高いと言えるのだろう。
技巧的に読者の恐怖心を煽るという点では、ヒッチコックの映画を見ているような気分だった。
また、「その行為をしてはいけないと思うから、してしまう」という心理もいくつかの作品で語られている。これは、現代でも多くの人が共感できるのではないか。
凶暴性や恐怖が、あるいは良心でさえもが、理性という膜を突き破って表面に噴出してしまう。そんな瞬間を楽し見たい方にはおすすめの一冊。
それにしても、ポーは暗闇や埋葬に関するオブセッションに怯えていたのだろうか。

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)