『建築プレゼンの掟』

■『建築プレゼンの掟』を読む。

ありそうでなかった内容ではなかろうか。

建築家、インテリアデザイナー、CMプランナーなど計10人が登場し、「模型は絶対大きくなくてはいけない」「意外に思えるような絵をわざと見せて相手の関心を引く」など、プレゼンテーションに関する具体的な手法を開陳してくれる。

しかしながら各人の意見をみると、テクスチャーを忠実に再現した模型をつくる人がいる一方、模型には色をつけないと言う人がいるなど、時に正反対となる。
にもかかわらず、さしあたって本書に登場する方々は皆、プレゼンで成功を納めているわけだから、結局プレゼンに普遍的な正答などないのだということが本書を通読して察せられる。

そのかわりに本書が教えてくれるのは、“プレゼン論を語ること”はつねに“自身のデザイン哲学を語ること”と重なっており、彼らのプレゼンが彼らのデザイン哲学と完全にシンクロしているからこそ、そのプレゼン手法は効果的に機能するのではないか、ということだ。その点に関しては、登場する10人を見る限り普遍的に妥当すると言ってよいだろう。

例えば、近代建築の形式性や抽象性を批判する中村拓志氏は、抽象的な空間思考の現れとしてのスチレンボード白模型を批判し、リアルな模型を用意して、「その場所にいるとどんな気分になるのか」をクライアントに疑似体験させる。

また、「負ける建築」を提唱する隈研吾氏は、クライアントの要望を全面的に受け入れた上で自身のやりたいことを実現する「負けるプレゼン」を実践している。

だから、彼らの手法を表面的に真似たとしても、いずれの手法も功を奏さないだろう。
むしろ上記のように、“デザインすること”と“プレゼンすること”が同義になっているとはどういう状態なのかを味わう意味でなら、本書はあらゆるジャンルのクリエーターにとって一読の価値を持つだろう。

ところで、若手建築家がこぞってレムコールハースのプレゼンに言及し、その影響か、ブックレットを製作してプレゼンに臨むのが常道的なスタイルになりつつあるように見えたのが印象的であった。

建築プレゼンの掟 (建築文化シナジー)

建築プレゼンの掟 (建築文化シナジー)