『表現の技術』(高崎 卓馬/電通)を読む。

表現の技術―グッとくる映像にはルールがある

表現の技術―グッとくる映像にはルールがある

 
クリエイションの技法に関する分野の本には、良書が少ないように感じる。そんな中で、本書はとても上質な内容だ。
記述に無駄がなく、濃密で、スピード感がある。さすが、CMプランナーである。すぐに読めてしまうが、手元に置いておいて、読み返したくなる。
「具体的な技法」と「創作のための基本姿勢」が、バランスよく記述されている点もよい。
 
著者は、テレビCMなどを制作している、電通のクリエイティブディレクターである。
そのため、CM制作に関する具体例が多いが、内容は普遍性を持っているので、映像、映画、小説などを創作する人はもちろんのこと、その他のジャンルのクリエイターにも大いにヒントを与えてくれる。
特に、映画「ダイハード」を例に、映画の汎用的な構造を解析し、その変奏として別の作品を生み出す方法は、大変参考になる。どんな分野であれ、クリエイターはこうした基礎訓練をすべきだろう。オリジナリティーは、その後で発揮すればよい。
 
では、本書に登場する技法をいくつか。
・相手の心に「?」を生み出すために順場を入れ替える。
・「置換行為」で何かをずらしてみる。
・感情を書くのではなく、登場人物の行動で書く。
・オムニバス禁止令。
・観客が安心して不安になれるよう、ルールのある葛藤を設定する。
 
次に、メモしておきたくなったフレーズをいくつか。
・状況がミッションがミッションを生み、ミッションがディテールを決める。
・どういう変化を世の中に与えるべきか。まず徹底的に考えること。
・自分にフィットしたつくり方をつくる。
・最終的な表現に、考えた道筋やロジックが透けて見えるものは圧倒的につまらない。
・シンプル思考、大きめ思考。
 
なお、とても驚いた点が一つあった。著者は自分のクリエイティビティーを強化するため、自分の好きなものや心が動いたものを集め、それを保管し、その面白さを分析し、自分の生理を客観的に理解するという作業をしたという。これとまったく同じ方法を、「商店建築 8月号」のインタビューに登場してくださった建築家の永山祐子さんが、学生にやらせていた。そのくらい普遍性を持った訓練方法ということだろう。
 
何かを生み出す時には、大きく分けて三つのステップがある。まず、初期の着想を得る段階。次に、それを一つの作品に展開させる段階。そして、それが価値ある作品なのかを吟味してブラッシュアップする段階。
つまり、求められるのは、「発想力→展開力→チェック能力→アレンジ能力」といったところだ。
本書は、そのいずれのステップについても少しずつ言及してくれているので、うれしい。
そして、本書の価値は、それらの各ステップにまつわる技法を教えてくれることよりも、それらの能力の磨き方を教えてくれるところにある。技法は「伸びしろ」を持たないが、能力は磨けばいくらでも伸びるからだ。