『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』

■『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』(山崎亮/学芸出版社)を読む。
著者はランドスケープデザイナーとしてキャリアをスタートさせながら、現在コミュニティーデザインやパークマネジメントを手がける山崎亮さん。山崎さん率いる「studio-L」の活動が平易にコンパクトにまとめられている。
ランドスケープデザインとコミュニティーデザインは、一見ずいぶん異なる領域であるように見えるが、山崎さんにとってそれらは繋がっている。だから山崎さんは「風景は、そこで生活する人たちの行為の積み重ねによってできあがる」という。
 
特に山崎さんの柔軟な思考とフットワークの軽さが印象に残った。そして、コミュニティーを語っても、説教臭くならないし、固さがなく明るく爽やかだ。コミュニティーづくりのプロジェクトは、そんな山崎さんのキャラクターに負うところも少なくなさそうだ。
 
手法として印象に残ったのは、山崎さんが、子供たち、学生たち、地域の奥さんたちを上手に巻き込んでプロジェクトを動かしているということ。彼らに役割を与え、プロジェクトに参加してもらうことで、動きが悪かったり社会的役割に縛られていたりする地域のオジサマたちや行政を動かす。つまり、図式化して言うなら、山崎さんは、これまで男社会がつくってきた都市の歪みや硬直を、女性や子供や学生の力を借りながら解きほぐしている。
 
山崎さんは「課題を解決するためにコミュニティーの力を高めるようなデザインを提供するというアプローチ」を採用することが多いという。山崎さん自身が直接問題を解決するというよりも、山崎さんが手を離しても当事者や参加者が自発的に活動してコミュニティーが機能し続けるようなプラットフォームをつくっているというわけだ。このデザインアプローチは、フェイスブックツイッターの仕組みを連想させる。それらは基本的には管理者はプラットフォームを用意するだけで、あとは参加者たちが次々書き込み続けることによりサイトは自走していく。地域の人たちが「自分も参加したい」と思うような楽しげで参加し甲斐のあるプラットフォーム、それを山崎さんはつくっている。
 
とはいえ、studio-Lだけでこなせるプロジェクト数には限りがある。けれど、地域社会が空洞化して孤独死無縁社会が叫ばれる時代にあって、山崎さんのようなコミュニティーデザインの活動は今後ますます必要とされそうだ。だからこうしたコミュニティー構築を手がけられる人々がもっと増えたらいいと思う。どうしたらいいだろうか。先日取材で山崎さんにお会いした際にそう問いかけてみると、「まずはこの職能を多くの人に知ってもらう必要がある」と言っていた。多忙の中、本書を執筆したりテレビ出演したりする背景には、そんな思いがある。
 
最後に、「公共的な事業に対する住民参加に比べて、行政参加はまだまだ遅れている」というセンテンスが印象に残った。

使い手の視点から都市を捉え直す山崎さんの活動を読みながら、ミシェル・ド・セルトー、ジェイン・ジェイコブス、イアン・ボーデンなどが頭をよぎった。
そういえば、先日取材でお邪魔した巣鴨信用金庫も、地域の人々が気軽に立ち寄れるコミュニティースペースを意識してサービスを提供していた。様々な場面でコミュニティーがテーマとなる今、本書は多くの人の参考になるだろう。

コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる

コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる