『ブスがなくなる日』

■『ブスがなくなる日』(山本桂子/主婦の友新書)を読む。
ビューティーサロンを取材した帰りに、この強烈なタイトルの新書が目に留まり、読んでみた。密度が高くて、面白い。笑いを交えた読みやすい文章ながら、読む人に重要なことを考えさせる。とてもオススメの一冊。
 
美容ジャーナリストの著者によれば、ここ15年ほど、「髪型・化粧・服装の進化」によって女性のルックスが底上げされたのだそうだ。化粧品にかんしては、ファンデーションやスキンケア製品の技術向上があった。髪型にかんしては、カリスマ美容師が話題となった90年代半ば、カッティング技法やパーマ技術が発展したそうだ。服にかんしては、不況で、「安カワ服」を扱うファストファッションが台頭したことが背景にある。
 
そして著者は、美貌の歴史を概観し、「美人は有史以来ずっと支配者の顔でした」という。ということは、美の基準は、時代のコンテクストに依存する。だから美人に生まれた人は、間違っても「私の容姿それ自体に美が内在している」などと勘違いしてはいけない。そして同時に、美に自信がない人も、別の国や地域に行くと、そのコンテクストの中では大変美人だと評価される可能性があるということだ。
 
さらに本書は美貌という切り口から日本の近現代史を論じる。経済、進学、雇用などの状況の変化ともシンクロしながら、女性は、美人で男性に選ばれるか否かで「ヨメ派」「非ヨメ派」などにカテゴライズされ人生を左右されてきた。しかし、バブルの崩壊とともに、男性が女性を選ぶ社会は終わった。それにより2つ変化が生まれた。ひとつは、女性が男性の視線を以前ほど気にしなくなったこと。むしろ同性の視線が重要性を持つようになった。もうひとつは、女性が男性を品定めする視線が厳しくなったこと。そこで、ブサメンやキモメンなどという言葉も登場した。著者はブサメンの生きる道として、「執事」か「道化」を提案する。けれど、思うに、どちらも高いコミュニケーション能力を問われる。厳しい時代だ。
 
なお、著者は、とても重要で深刻な問題も提起している。近年、美容は、「努力」「内面から美しく」という道徳が結びついてしまい、「きれいになる努力をやめるわけにはいかない」状況になっているという。たしかに、美の追求には明確な終着点がないから、際限がない。中には、次々と病院を変えて整形手術を繰り返す「整形ジプシー」なる女性もいるというのには驚いた。
そして、仮に整形手術で美貌を手に入れたとしても、それは幸せか、と本書は問う。その問題については、先日読んだ『ビューティフルピープル・パーフェクトワールド』というマンガが大変示唆的で面白かった。
 
終盤で著者は、「見た目社会の本当の怖さは、見た目そのものが評価されることではなく、見た目によってその人の人間性までが評価されてしまうことなのです」と指摘する。おそらく人々は無意識にこうした評価をしている。だから少なくとも、無意識にこうした評価をしているという事実に対しては意識的でありたいと思った。
ルックスの問題は、今後、男性にとっても他人事ではないだろう。男女の別を問わず「見た目社会」が加速しそうだ。そうなれば、ビューティーサロンや化粧品メーカーは、大喜びだ。

ブスがなくなる日 (主婦の友新書)

ブスがなくなる日 (主婦の友新書)