サブリミナル・インパクト

『サブリミナル・インパクト』(下條信輔ちくま新書)を読む。
認知科学に関する一般向けの書籍だが、大変刺激的。読んでよかった。
キーワードは、情動と潜在認知。

僕たちは、CMや新聞記事を通して、潜在意識にいろいろな情報を刷り込まれているらしい。そして、その情報は、僕たちが買い物をしたり投票をするときに、僕たちの意思決定に少なからず影響を与えているという。(といっても、陰謀論ではない)

情報は、僕たちの潜在意識にどのように入力されるのか。そして入力された潜在知識は、僕たちのどういう行動としてアウトプットされるのか。この二つの仕組みを、科学実験の結果を交えて分かりやすく教えてくれる。

ただ、その仕組みが分かったところで、僕たちが潜在意識や情動に意思決定を左右されてしまうという事実は変え難い。なぜなら、本書によれば、潜在意識は「自働的で反射的」で、顕在意識よりもはるかに強く僕たちを動かすから。
それでもやはり、潜在認識の仕組みを知ることにより、潜在意識を悪用する情動政治などに対抗する術が見えてくるのではないかと希望を提示する著者の姿に、科学者としての倫理観を感じた。

付け加えておくと、潜在意識は、一方で、そんなに悪いものでもない。最終章では、潜在知識がクリエーティビティー(発明や閃き)の重要なきっかけであることを説明している。著者は、科学的知見をベースにして、どうすればクリエーティビティーを発揮できるかをちょっぴり示唆している。確かに、自分が企画を思いつく時の状況を反芻してみると、なるほど著者の言っている閃きの呼び寄せ方には、合点がいく。
そして、奇跡的な閃きは、個人が持つ資質のみによるのではなく、むしろ文脈依存的であるという解説も、凡人を勇気付けてくれてうれしい。

新奇性と親近性の組み合わせ方次第で人間に「快」を感じさせることができる、なんていう話も登場し、これはデザインを考える際にも使えそうだ。
なんとも示唆的な一冊。

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)