「LLOVE」 デザインタイド 中村竜治さんと谷尻誠さん

10月31日(日曜日)、昨日は一日雨だったが、本日は天気が回復したので、デザインイベントをまわる。


■代官山にて、日本とオランダのデザイナーが客室をデザインした期間限定ホテル「LLOVE」を見る。もともと奈良県の県職員向け施設だった建物。今回は、宿泊もできる。
印象に残った部屋は二つ。永山祐子さんがデザインした部屋と、ヨープ・ファン・リースハウトさんがデザインした部屋。
ホテルをデザインするということで、性愛というテーマをいかに解釈するのだろうかと考えていたら、リースハウトさんだけがそのテーマに向き合っていた。しかも秘宝館を思わせるベタなオブジェで。
永山祐子さんの部屋は、木々と砂利の中で過ごさせるデザイン。他のデザイナーが室内をいかにデザインするかと考えている中で、永山さんだけは、室内をほとんど屋外のような印象に変えてしまうことで、際立っていた。
http://llove.jp




■代官山のGALLERY SPEAK FORにて、イラストレーターのソリマチアキラさんの個展「Drawers」を見る。期待どおり素晴らしい作品の数々。
ソリマチさんのイラストには独特の味がある。トレンドとトラディショナル、新しさと懐かしさ、クールさと人間っぽさ、スタイリッシュさとユーモア、そんな対立する要素が絶妙なバランスでブレンドされている。
さらに、アパレルの販売員をされていた経験もあるせいか、ファッションへの観察眼が鋭く、洋服やアイテムが細かく描き分けられている。アメリカ文化の香りも、心地良い。
会場でポストカードを購入。会場では、各作品も数万円ほどで販売されており、引っ越しや結婚をする友人がいたらプレゼントしたいところ。

ソリマチさんには、以前「商店建築」誌の連載でもイラストをお描きいただいたのだが、毎月必ず締め切りの数日前に、丁寧に描き込まれた原画を送ってくださった。ご本人がスタイリッシュで穏やかな方なので、その人柄が作品の登場人物たちににじみ出ている。
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=342873


■表参道のアラカワショールームにて、「FABRIC FOREST」を見る。「石川県ゴム入織物工業協同組合」の企業の技術を、クリエイターが参加してPRするインスタレーション
たとえば、「川プロ」というメーカーの、カラフルで弾力性のある加工糸が天井からたくさん吊られている。
デザイナーの竹村尚久さんに会場でお会いし、お話をうかがう。
ファッションデザイナーも加わって、「ドレスのようなカバーを着せ替えられるイス」などが出展されている。
http://www.arakawagrip.co.jp
http://www.tokyo-dt.jp


■その後、六本木一丁目のスペイン大使館へ行き、「Made in Japain」を見る。スペインのデザイナーによるプロダクトやファッションアイテムが展示されている。
モノコックで流線的な造形がスペインのトレンドなのだろうか。そうえいば、今回の展示会のマスコットもそういう造形になっている。
http://www.spainbusiness.jp/icex/cda/controller/pageGen/0,3346,4928839_35713045_36778639_4411142,00.html




■六本木のギャラリー「夢のカタチ」にて、デザイナー鈴木清巳さんによるカーボンファイバー製のイスを見る。重さ800グラム強の軽さは衝撃。座れる強度は充分あるが、製品として販売できるレベルの強度実験は、まだこれからとのこと。素材は100%カーボンファイバーで、座面はクリア塗装、背もたれはマット仕上げになっている。シンプルな造形で、飽きないデザインだ。
ちなみに、デザイナーの鈴木さんは、ジャン・ヌーベルの事務所に勤務された後、現在は、内装施工や家具製作で有名な施工会社イシマルでお仕事をされている。

ギャラリー「夢のカタチ」/東京都港区西麻布1-8-4



■その後、ミッドタウンに向かい、建築家の中村竜治さんと谷尻誠さんのトークイベントを聴講。
第3回目となる今回のデザインタイドの会場構成を手掛けた中村さんと、1回目と2回目の会場構成を手掛けた谷尻さん。
それらの会場デザインの経緯や発想について、お二人が発表し合い、その後に軽く討議。
1時間という長くない時間ながら、司会の方の進行のおかげで、分かりやすく濃密な内容になっていた。

以前から中村さんは一貫して、白くて弱い(細い)素材を用いて輪郭のぼんやりした霧のような空間や家具をつくっている。谷尻さんも近年、ミラノサローネの「東芝 Luceste」などいくつかの仕事で、輪郭のあいまいな空間をつくっている。その点では共通している。
では、相違点は何だろうか。中村さんはストイックで職人的であるように見えるが、一方、谷尻さんはエンターテイナーであるように見える。
また、今日のレクチャーでも谷尻さんが言っていたが、谷尻さんは「完成しないもの」を目指している。つくった後にも変化を受容する空間を目指している。一方、中村さんの空間は、もっと完成形を目指しているように見える。
いずれにしても、そんなお二人の類似点と相違点を感じられる興味深いトークイベントだった。

以下に、印象に残った発言をいくつか。

「展示会場のデザインというのは、機能的にはなくてもいいものをあえてつくるという側面があるから、その分プレッシャーがかかる」(中村さん)
「自分の今回の会場デザインは、いかに軽く見せるかを熟慮したが、谷尻さんのは本当に(物理的に)軽かった」(中村さん)

「みんな(多くのデザイナー)が100m走るところを、自分は20m手前から先に走っておいて、120m走る。だから、スタート時点で他の人よりスピードがついている。そういうスタンスでモノづくりをしている。つまり、仕事を依頼されてから考えるのでは遅い。つねにアイデアを考えておいて、依頼がきたらすぐ反応できるようにしている。たとえば、デザインタイドの第二回の会場デザインは、依頼される前から勝手にアイデアをつくって、プレゼンしに行って依頼をもらった」(谷尻さん)。
このプロ意識あるれる発言で、会場に一瞬爽やかな風が吹いた気がした。

「自分がデザインタイドの会場デザインをしたときは、出展者や主催者のためにはブースが区切れるようになっていたほうがいいだろうと考えたが、反対に、今回の中村さんの会場デザインはあえてブースごとに区切らず、すべての場所がブースであり、同時に動線になっている。こんな発想もあるのかと感心した」(谷尻さん)
それにしても、他人の作品をについてコメントするときの、純粋で的確かつ温かみのある谷尻さんの語り口は、稀有な才能だと思う。同年代の同業者の仕事について、パブリックな場でこのように語れる人はなかなかいないのではないか。

http://www.ryujinakamura.com/
http://www.suppose.jp/



■デザインタイドのメイン会場へ。
中村竜治さんのによる会場デザインは、模型がそのまま実現したような軽やかな空間。人の動きをゆるやかに制御しながら、散策する楽しみも確保している。

印象に残った作品をいくつか。

デザインユニット「tm(tani / matsumura)」による、軽量スツール「Wafft」。ブナ材とアルミのハイブリッド合板。脚部のひねりが、強度だけでなく視覚効果も生んでいる。


ミック・イタヤさんの「SUZUMO CHOCHIN」。


元木大輔さんの「Lost in Sofa」。


DMY Berlin ブースのスツール。ふんわりして見えるのに、実は硬い。


NOSIGNERさんの「gravity pearl」。


■ミッドタウンの地下通路で見かけた展示で、「その先にあるもの」(作者:井口雄介)という作品に目が止まった。「素材:虹」とある。確かに、よく見ると虹が見える。
シンプルで静かで渋い作品だが、強烈なインパクトを受けた。どういう仕組みになっているのだろうか。

そういえば、さきほどのトークイベントで谷尻誠さんが「自然の草花などが完成せずに日々変化していくような状態を、空間づくりでも実現してみたい」という主旨のことを言っていた。また、さきほど見たホテル「LLOVE」でも、自然の要素(草木)を取り込んだ永山祐子さんの客室デザインが圧倒的に印象に残った。人工環境の中で、自然の要素を再現されると、人間はつい反応してしまうように思える。

自然と人為というテーマに興味のある方は、ちょうど森美術館であと1週間くらい「ネイチャー・センス」展が開催されているので、そちらも楽しめるかもしれない。
http://www.mori.art.museum/contents/sensing_nature/index.html

なお、これは、アートコンペ「Tokyo Midtown Award 2010」の受賞作だそうだ。
https://www.tokyo-midtown.com/jp/award/result/2010/art.html



帰宅したら21時。「芸術の秋」にふさわしい充実の午後を過ごした。