ブログ 52 SMILE グランシップ


こんにちは。
 
■先日、親しい知人に「頻繁にブログを書き続けて偉いですね〜」と言われた。これは考えてみると不思議な指摘だ。なぜなら、ブログを書くという作業は、誰に強制されるわけでもなく、100%自分の意志だけでやっている。プライベートな時間に行う単なるささやかな息抜きに過ぎない。仕事ではないのだ。つまり、こうして家に帰ってブログを書く時間は、多くの人が家に帰ってビールを飲んだりスポーツ観戦をしたりする時間とまったく何も変わらない。ビール好きの人がビールを飲むことで一息ついて一日の疲れを癒やしている時間に、僕はブログを書くことで一息ついて一日の疲れを癒やしているだけだ。その意味で、ブログを書くことは、ビールやスポーツ観戦やパチンコやガーデニングとまったく同じだ。なのに、「毎晩欠かさずビールを飲んで偉いですね」とか「毎週早朝からパチンコ屋の前に並んで偉いですね」と言われる人は、たぶんいない。なぜだろう。ブログを書くことは少し仕事に似ているから、仕事と混同されてしまうのだろうか。

そんなことを考えていたら、ちょうど日経新聞の夕刊(2011/05/11付け)に、「書き込みで職場に波紋」という記事が載っていた。ツイッターSNSの書き込みによって職場の人間関係がぎくしゃくしたり、さらには名誉毀損や情報漏洩に繋がるケースがあるそうだ。僕たちも会社で編集部公式ブログや編集部公式ツイッターを書いているし、個人でもツイッターやブログをやっている人も多いだろうから、他人事ではない気になるテーマだ。どうすれば、名誉毀損や情報漏洩を防げるだろう。
たしかに、上記の日経新聞の記事にも書かれているように、個人には表現の自由が保障されているから企業が社員のツイッターやブログの使用を一律に禁止することはできない。もっと言えば、仮にできたとしても、それはクリエイティブではないし賢明ではない。例えばもし「自動車事故を未然に防ぐために我が国では自動車の使用を一切禁止します」なんていう法律を作る国があったら笑ってしまうが、たぶんそんな国はないだろう。多少の事故のリスクはあるが、自動車の利便性や効率性の方がはるかに大きいし、それを人々が求めるから、リスクを最小限に抑えながら自動車が使用されている。ツイッター、ブログ、SNSなどの情報ツールも同じだ。
では、自動車では、リスクを抑えるために、どんな運用がなされているだろう。以下などが思いつく。
 1.法規・資格・罰則を整備する。(道路交通法など)
 2.それらが遵守されているか監視する。(警察)
 3.テクノロジーで事故が起こる確率を下げる。(ドライバーが酒気を帯びていたらエンジンがかからない、など)
 4.テクノロジーで事故後の影響を小さくする。(エアバックなど)
「3」「4」は、情報ツールの世界ならばアーキテクチャーによるコントロールに該当するかもしれないが、あくまで補助的な存在だろう。すると、「1」「2」が有力か。「2」も、一企業内で行うにはコストが掛かりそうだ。すると、今のところ、「1」を徹底して、それを守るよう個人の善意を信頼するのが現実的かもしれない。
そう考えると、前出の記事で触れられている中では、書いてはいけない文例を豊富に提示したソフトバンク社内のマニュアルやヤマハが社内で整備したSNS利用に関するガイドラインが参考になりそうだ。記事中に登場する弁護士も 「自社にとっての営業秘密は何かなど、基準を明確に示す必要がある」と指摘している。
まず、社内でのルール整備が重要であるようだ。同時に、個人が良識やリテラシーを日々ブラッシュアップすることも、もっと重要だ。

さて、僕自身もこうしてブログを書きながら、もちろん他人に名誉毀損や不利益を与えたり所属企業の損失につながるようなことがないよう細心の注意を払っているが、もしかしたら、気づかないところで誰かに不利益や不快感を与えていないとも限らない。そうしたことを防ぐ一つの方策として、僕宛てにメールを送れるようにしてある。万一、誰かに不快感や不利益を与えてしまった場合、その人が僕に削除依頼のメールを送れるようにしておくためだ。他にも何かいい方法はあるだろうか。あったらぜひいろいろ教えていただきたいと思っている。
 
そういえば『自動車の社会的費用』(宇沢弘文岩波新書)という研究があったが、「情報ツールの社会的費用」も誰か研究してくれないだろうか。それとも、既にそういう本はあるのだろうか。

■東静岡で「グランシップ」を見る。様々な大きさの市民ホールなどが入った文化施設。設計は磯崎新アトリエ
日本の建物からは通常感じることのない巨大さを感じる。その巨大さは西洋の大聖堂に似ている。しいて言えば、奈良の東大寺大仏殿を見たときに感じた巨大さに似ている。
数字の上では、もっと高い建物などいくらでもあろうが、この吸い込まれるような巨大さの印象は独特だ。新宿で50階建ての超高層ビルを見ても、こうした巨大さは感じない。
この巨大な印象はどこからくるのだろうかと考えて、三つ思いついた。
・周囲に高い建物がない。東静岡駅の駅前だが、周囲には、高層マンション一棟以外はグランシップのような高い建物がないため、グランシップの高さが目立つ。
・イエ型である。この建物のファサードは民家のようなデザインになっている。おそらく人は、民家のような形の建物を遠くから見たとき、無意識に「あの建物はあまり大きくないはずだ」と思い込むのではなかろうか。だから、建物に近づくと、その思い込みとのギャップで「ありゃ、こんなはずではない」とその大きさを強く感じるのではないか。反対に、いかにも超高層ビルらしいデザインの建物であれば、遠くからそれを見たとき「あの建物は高いはずだ」と無意識に思い込むのだろう。
・前の広場が大きい。先述のギャップを感じさせるには、まず人が遠くからその建物を見た後、徐々に近づいていくというプロセスが必要なのだろう。そして、あまり近くからみても、巨大さを感じられない。グランシップくらいの高さの建物の場合、おそらく30〜50mくらい離れたところで建物のファサードと対峙すると、ひときわ大きさを実感できるのかもしれない。建物の大きさを感じさせるには、適切な引きを取って建物を眺めるための広い空間が必要なのだ。昨年、ドバイで世界一高いビルを下から見上げたときは、どのくらい大きいのかあまり実感できなかった。
【追記】
・大きさを目算するための単位となる要素がない。通常は人は、建物を見る時、窓、扉、階高といったエレメントから建物の大きさを無意識に目算する。例えば、50階建ての超高層ビルだったら、多くの場合、スラブと窓のセットが単位となって、それが縦方向に50階くりかえし積み上げられている。グランシップの場合は、そういう大きさの目安となる単位がファサードの中にほとんど見当たらない。同じ磯崎新氏設計の「なら100年館」を見た時も同様のことを感じた。その建物にもほとんど開口部がなく、遠目に見ると、どのくらい大きいのか体感的に検討がつかず、近づいてみると「おお、でかい」という印象を受ける。
 
http://www.granship.or.jp/

 
■つづいて、東静岡のブティック「52」へ。設計は、谷尻誠さん率いるサポーズデザインオフィス。
これは素晴らしい空間だ。いわば右脳の感動と左脳の納得を同時に感じさせてくれるような、最高に上質な空間だ。東静岡の住宅街に立っている。外観は納屋のように見えるので、まさか中身がブティックだとは気づかない。ところが、大きな扉を開けて、一歩内部へ足を踏み入れると、別世界が広がっており、ハッとして、五感が呼び覚まされる。
プランニングは、大変シンプル。長方形の床を、折れ曲がった1枚の薄い壁が仕切っており、二つの空間が生まれている。一つは、トップライトから日光が差し込む「屋外をイメージした部屋」。もう一つは、温かい色味の電球が吊られた「屋内をイメージした部屋」。谷尻さんのコンセプトとしては、前者の空間に屋外で使うスニーカーやアウターを並べ、後者の空間に部屋で着る服を並べるイメージだそうだ。
どちらの空間に身を置いても、もう一方の空間の存在を感じることができ、この「今いる空間が絶対ではない。他に選択の余地がある」と感じることができる。それが、気持よさにつながっている。そして、そうした理屈抜きに、体感的に気持ちいい空間でもある。こうして、二つの対立する空間が相補的に意味を持つような構成は、建築家の青木淳さんも試みていたが、この気持よさが、谷尻さんらしい。
そして、この建物は、ブティックという業態を超越して、「空間の質」を獲得している。だからこの空間は、カフェになろうと、ギャラリーになろうと、アトリエになろうと、使われ続けていくだろう。(そうえいば、「空間の質」も青木淳さんがよく言及するキーワードだ)
いずれにしても、最高に美しい空間体験だった。これほどのクオリティーの店舗を設計できる建築家が、いま日本にどのくらいいるのだろうか。
なお、突然の訪問にも関わらず、お店の代表の方が温かく迎えてくださった。そして、「この空間を活かすもっといい什器レイアウトがあるのではないかと考えてしまう」とおっしゃっていたのが、とても印象的だった。空間が使い手を触発し、使い手は空間と対話している。
http://www.suppose.jp/

 
■撮影にて静岡県牧之原市へ。ビューティーサロン「SMILE」の撮影。
設計を手掛けたドロップシステムの江口智行さんにお立会いいただき、オーナーさんにも定休日にもかかわらずご協力いただき、充実した撮影となる。カメラマンの鈴木光さんも日光の具合をみながら、じっくり撮ってくださった。
周囲は、お茶畑や田んぼに囲まれた、のんびりした立地。ちょうど新茶の摘みとりのシーズンで、周辺のグリーンが鮮やかだった。快晴に恵まれ、最高に気持ちいい気候。
そして、全面的にレッドシダー材を使ったイエ型の建物は、人を安心させる温かみがあり、このロケーションに合っているとともに、江口さんの人柄も反映されているように見えた。
内部空間は、施術スペースに向かって徐々にクールダウンするプランニングになっている。
近いうちに、スパ&ビューティーサロン特集でご紹介するので、ぜひお楽しみに。
http://architect.dropsystem.co.jp/

  
■ファムス福本さんにご案内いただき、銀座のエステサロンを見学。カーテンで仕切られた繭のような施術室が並ぶ。簡単な工事でレイアウトの変更ができるデザインになっている。
http://www.fhams.com/
 
■京都の「ホテル アンテルーム 京都」がちょっと気になる。今度、京都へ行ったら泊まってみよう。
コクヨファニチャーの子会社「都市デザインシステム」が2011年4月28日に開業した。2010年10月開業の「ホテル カンラ京都」と同じく、都市デザインシステムが企画、設計、デザイン、経営、運営を手掛けている。
http://hotel-anteroom.com
http://www.kokuyo.co.jp/press/2011/04/1152.html
京都府京都市南区東九条明田町7番