『草食系男子の恋愛学』

草食系男子の恋愛学』(森岡正博メディアファクトリー)を読む。森岡氏の著作を一度読んでみようと思っていたところ、ちょうど新刊が出たので、立ち読みもせずに購入。

草食系男子“についての”本かと思っていたら、草食系男子“に向けての”本であった。(『平成男子図鑑』(深澤真紀 著)のような本を予想していた)
全体に恋愛指南のような内容であるが、表面的な話よりも、どのようなメンタリティーをもって異性との付き合いに臨めばよいかという根本的な思考の仕方に比重が置かれている。誠実さや相手に与える安心感を繰り返し説く著者の主張は、あまりに誠実で、あまりに正しく、女性に向ける非常に真摯な態度が伝わってくる。その意味で本書の内容は、草食系男子に限らずあらゆる男性が知っておくべき大前提の知識であろうから、そこに一定の価値は感じる。

しかしながら、本書は本当に草食系男子を対象にしているだろうか。草食系男子よりもさらに恋愛に関して奥手な、世に言う「アキバ系」のような人向きなのではないだろうか。草食系男子は、このあたりの基本的な心構えについては既に知っているように思える。非常に大雑把に言えば、草食系男子というのは、肉食系とオタクの間くらいに位置しているボリュームなのではなかろうか。

とはいえ、少なくとも一箇所、草食系男子の思考パターンを的確に言い当てていると思えるくだりがある。「逃げ続ける自分をいつまでも正当化」しているのではないかと指摘する部分(171ページ)。私の友人にも同年代の草食系男子が何人かいるが、実感として、著者の指摘どおりだと思う。

ちなみに、「逃げ続ける自分をいつまでも正当化」する草食系男子(ある種の女子にも当てはまるだろう)のこうした思考方法は、以下の二つの性向によって支えられているのではないか。“傷つくことを極度に恐れて忌避する”。“欲望(他人からの羨望の眼差しを欲する気持ち)を抱かない”。

読後、ふと思う。ところで、自分は草食系なのか、と。

それにしても、草食系男子というネーミングは素晴らしい。個人的な興味に照らして言えば、中森明夫氏によって一般化された「オタク」というカテゴライズ以来の、重要な命名になるかもしれない。


草食系男子の恋愛学

草食系男子の恋愛学