『最後の物たちの国で』

『最後の物たちの国で』 (ポール・オースター白水社)を読む。

異常な貧困、物資の不足、治安の悪さ、圧政、、、なんとも言えない極限状況からのレポートという形式をとった小説。
寓話的な作品だが、考えてみると、現代の現実世界にもこれに似た状況がありそうだ。北朝鮮とか、中国の一部とか、あるいは、内戦の絶えない地域などに生まれたら、こんな状況の中で生きねばならないのかもしれない。

作中には、オースターのオブセッションと思える要素がたくさん散りばめられているようだ。例えば、書物が燃やされてしまうシーン。書物に囲まれた理想の部屋。ユダヤ人の生き難さ。人のために生きること。死んだように生きること。人生は偶然の連鎖の産物であること。自分に都合のいい無根拠な物語をでっち上げて、それにすがって生きる凡人たち。貧困。空腹。などなど。

まるでオースターが生きていくためにはこの作品を書かねばならなかったかのような、作者自身の内面が剥き出しの作品だと感じる。抽象性と緊張感がお好きなかたには、おすすめの一冊。


最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)