こんにちは。

 
東京都現代美術館にて「名和晃平シンセシス」展を見る。
とても刺激的な個展。行ってよかった。

セルやドットで構成される名和晃平の作品をコンピューター時代の感覚だと言ってみたり、同じ像を二つ重ね合わせた名和の造形を、デジタルとアナログの二重化された身体の表現だと言ってみたりする、そうした分析にはあまり共感できないが、それでもなお、名和の作品は、コンピューターやインターネットが可能にした「世界の体験の仕方」をアナロジカルに具現化しているように見えた。(作家の意図はそうではないかもしれないが。)
その「世界の体験の仕方」とは、「解像度」に関する体験だ。たとえば、グーグルマップ。僕らは、そこで日本地図や世界地図を見ることができる。そして、それを思いっきりアップにしていけば、あっという間に個々の建物や細い道路という街のディテールを見ることができる。「POWERS OF TEN」の世界が簡単に体験できる。CADで図面を描くときも同じだろう。まず敷地全体の図面を見る、そしてそれをズームしていけば、あっという間に窓のサッシのディテールまで見える。僕らは、強烈な解像度の幅を手に入れた。
名和の作品は、そんな僕らの世界体験を想起させる。たとえば、鹿の剥製を無数の透明の球体で覆った「BEADS」。離れて見ると、ぼんやりとした剥製の全体像が見える。近づいて見ると、透明の球体を通して、剥製の毛の一本一本が見えてしまう。つまり、全体像を見た次の瞬間に、一気にディテールが見えてしまう。あるいは、人間の大きさの数十倍はありそうな巨大造形物を作者が想定し、その小さな全体模型と原寸模型が展示された「MANIFOLD」。これも、全体像とディテールだけが示されている。解像度の振幅が強烈なのだ。
 
もう一つ、名和作品を見て感じたのは、僕らが日頃どのように物を見て認識しているかということについて。
おそらく僕らにとって、「意味」も「パターン」も介在させずに物を見ることは難しい。物を見てそれを了解するには、「意味」か「パターン」が必要だ。この展覧会は12の部屋で構成されており、大まかに見ると、順路の真ん中あたりから、造形が抽象的になる。前半の作品は、「鹿」「サボテン」「人間」など、モチーフが具体的。けれど、後半になると、抽象的な樹脂の量塊のような3次元作品「SCUM」やドットの集まりのような2次元作品「DRAWING」が展示されている。それを見る人はきっと、「これは何だろう」と考える。「これは何だろう」という問いは、「これは、私の知っている名詞で言い表すとしたら、どの名詞に該当するだろう」という問いと同じだ。そして、自分の知っているどの名詞にも当てはまらない物体に出会ってしまうと、人は、不快感や不安感を感じる。
けれど、意味を持たないように見える抽象的な形であっても、そこに多少なりともパターンが見い出せれば、少し落ち着く。ときには、美しいとさえ感じる。シリコンオイルによる作品「LIQUID」などは美しい。
 
なお、サボテンやパンをプリズムシートで覆った作品「PRISM」も美しかった。このサボテンをいろいろな角度から見ようとしても、プリズムシートのせいで、見え方が限定される。鑑賞者はつねにプリズムシートで歪められた像しか見ることができず、「物自体」を見ることはできない。では、プリズムシートを取り払えば、物自体を見ることができるだろうか。たぶん、そうではない。僕らは相変わらず眼球や視神経というフィルターで歪められた像しか見ることができない。
そんなわけで、物を見るとき、僕らはつねに、「意味」「パターン」「視覚というフィルター」などいくつもの要素に制約されながら物を見るほかない。そんなことを改めて感じた。
 
最後に一つ。結局のところ、名和の作品が魅力的である理由はおそらく、インターネット云々、コンピューター云々、ドット表現云々という「いかにも」な屁理屈とは関係のない地点にあると思った。では、その魅力の源泉は何か。それは、名和が無数のドットや球体の集合体をなぜか好きで堪まらない。だから、否応なく作品を制作している。そんな気迫が伝わってくる点にあるように感じた。(この推測が当たっているかは分からないが。)
いずれにせよ刺激的な展覧会。
 http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/124/
 http://www.mot-art-museum.jp/koheinawa/
 
■モダンメキシカン「MUCHO-MODERN MEXICANO-」へ。
サラダ、アヒージョ、スープなど、どれも美味しい。手間暇かけた家庭料理のようなリラックス感が舌をリラックスさせる。サービス、味、BGM、空間、どれもバランスがとれている。お米のプリンなど、珍しいデザートもあって嬉しい。
http://r.gnavi.co.jp/e533214/