『幸せを科学する』(大石繁宏/新曜社)を読む。
前半よりも後半のほうが面白いと感じた。紹介される研究結果に意外性が乏しいのと、結果結果に対する著者の考察がやや甘いので、星三つ。
とはいえ、興味を引かれる研究結果が紹介されていた。
「さまざまな人生の出来事の幸福感への影響は、最初の3カ月間に限られていること」。
「小さな子供を持つ夫婦の満足度が、同年齢で子供のいない夫婦に比べて低い」。
「女性の多くがさまざまな対人関係を自己概念の中核に置くのに対し、男性では対人関係を自己概念の中心に据える人は少なかった」など。
また、「最も幸せな体験について被験者に3日間15分書くか、喋るか、あるいは一人で考えるか」をさせると、“考える>書く>喋る”の順で4週間後の人生への満足度が高かった。この結果はもしかすると、書いたり喋ったりするという形でアウトプットしてしまうと、その幸せ体験に関する記憶が薄れてしまうためではないだろうか。
なお、幸せは、ものを購入することとも関係しており、その意味でも、商業空間に関する雑誌編集に携わっている自分としては、面白い話題があった。
「コンサートや旅行などの体験的消費のほうが、テレビや服などの物質的消費よりも幸福感により強く影響を与える」という調査結果だ。
さらに「経験的な購入でも、旅行やコンサートが非常に高い幸福感を与えるのに対し、エステは、物質的購入以下の幸福感しか与えない」という。
ここで著者は、エステを「経験的な購入」の範疇に入れいているが、おそらく間違いだろう。なぜなら、一見エステは経験型に思えるのだが、実際は、単にスベスベの肌や細い脚という耐用期間の著しく短い一時的な“商品”を購入しているに過ぎないからだ。
また、興味深いのは、「年収約500万円から899万円のグループと900万円以上のグループで、幸福感にほとんど差はない」という調査結果だ。この点のみから言えば、高所得者層に対する所得税率を上げてもいいのかもしれない。
最後に一つ。結局のところ最も興味深かったのは、本書を読むとで、「幸せを科学すること」自体の不可能性が理解できたということ。
というのは、人が「科学する」のは物事の因果関係を解明して再現性を高めるためだろうが、本書で紹介されている研究結果によれば、「何かいいことが起こった時に、その理由を考えないほうが幸福感はより長く継続する」と報告されている。ということは、意図的に再現できる出来事(理由が分かっている出来事)には人は幸せを感じにくいわけだ。だから、幸せを「科学」してしまったら、幸せは薄れることになる。
それにも関わらず、読者(自分も含め)が本書を読むのはなぜだろうか。おそらくもっと幸せが欲しいからだろう。だが、本書で紹介されている別の研究結果によれば、もっともっとと求める終わりなき欲望(著者の言葉で言えば「現状に満足しない態度」)こそが、ときとして、私たちの幸福度を下げているのだ。
そんなわけで、意図して幸せを増大させるのは、なかなか難しいということが実感できる。そう思いながら本書を閉じて、帯の文言を眺めてみたら、言い得て妙である。幸せに興味を持つ人なら、読んで損はない一冊と言えるだろう。
- 作者: 大石繁宏
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2009/06/01
- メディア: 単行本
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