『視界良好』

『視界良好』(河野泰弘/北大路書房)を読む。
生まれつき全盲である著者が、その生活がどういうものなのかを丁寧に語った一冊。
横断歩道を渡るのが命がけであることなど、想像以上にその生活の一つひとつが大変であることを改めて認識した。こうした書物が出版されるのは社会的に価値があるだろう。多くの人が手に取ってくれるといい。
一つ残念なのは、描写の深度がやや平板なこと。これは編集者の責任かもしれない。
一方、印象深かったのは、「怒り顔ができない」(P.20)の部分。著者は、他人の笑った顔を見たことがないのに、笑顔は自然につくれると言う。しかし、怒り顔はうまくできないと言う。確かに、赤ちゃんも早い段階で笑うようになるが、怒るようになるのは、もっと成長してからだ。つまり、人間にとって笑顔は自然な表情だが、怒り顔というのは、文化として後天的に学ぶものなのかもしれない。示唆的だ。ところで、たしか、いま読んでいる『ものぐさ精神分析』(岸田秀)のどこかに、笑う生き物は人間だけだ、と書かれていた。なぜ人間だけが先天的に笑いを知っているのか。