同時代の著者 SAKAE GREE

こんにちは。
 
■ライターの加藤純さんとエマニュエル・ムホーさんの事務所にお邪魔し、一連の巣鴨信用金庫のデザインコンセプトについて伺う。初期イメージを崩さずに、ノイズを入れずに、シンプルに形にする思考プロセスが印象的。
http://www.emmanuelle.jp/

■編集者の山崎泰寛さんが雑誌「建築新人002」(総合資格学院)でのインタビューに登場しており、その中のオススメ本の紹介コーナーで、とても面白い発言をされていた。
山崎さんが大学時代の先生から受けたアドバイスだそうで、「同時代(同世代という意味ではない)の著者を10人選んで追い続けるとおもしろい。その10人については、どんな小さな原稿もみつけたらすべて読むんです」というもの。すると、頭の中に「自分+10人」の世界が生まれるのだそう。なるほど、シンプルで具体的で強烈なアドバイスだ。
学生時代なら時間の余裕もあるかもしれないが、社会に出て実務に追われ始めると、この教えを実践するのは簡単ではなさそうだ。しかし、この方法を心がけると、自分の実体験の範囲を超える幅広い複眼的な思考回路を効率的に得られそうなので、むしろ忙しく実務に追われている人々にこそ有効かもしれない。そして、もっと言えば、この方法からは、効率性を超えた何かを得られそうな気がする。とてもいい話を聞いた。
そんな記事を読みながら、学生時代に山崎さんに出会った頃、「いろんなところに原稿を書く人は、こんなに幅広く本や映画にアンテナを張っているのか」と、とても刺激を受けたことを思い出す。

■建築家の山崎健太郎さんが設計された関内(神奈川県横浜市)のカジュアルレストラン「Cafe&Dining SAKAE」にお邪魔した。「場をつくりたい」という若いオーナーの明確な思いが具現化されている。
ユルさ、包摂性、猥雑さ、オーガニックなどなど、今日的なテーマが集約された空間。とても素晴らしいお店だ。横浜方面に行った際に、非常におすすめのお店。
店内には、巨大なテーブルが一つ置かれている。テーブル上にランダムに配置された植物が緩やかに厨房側と客席側を仕切る。まるでオーナーの家に遊びにきたようなカジュアル感。

このお店は、最近僕が勝手に命名している店舗のデザイン潮流「猥雑カジュアル」(フォーマルでなく、店の内外の境界や席間の境界が曖昧で、賑わいが周囲に滲み出ている店のこと)の雰囲気を、上品に体現しているように見えた。とても居心地が良い。

この居心地良さの正体は、「明快な境界線を持たないことによるユルさ」と「何でも包摂してしまうことによるユルさ」ではないかと思う。そんなユルさ、自由さ、穏やかさ、懐の広さを、オーナーと空間とメニューという3つの要素が存分に体現している。
例えば、自分のテーブルと隣のお客さんのテーブルとの間に境界線がない。厨房と客席との間にも境界線がない。それが、「明快な境界線を持たないことによるユルさ」を生んでいる。
また、この空間の魅力は、必ずしもレストランとして使用しなくても、発揮されるだろう。カフェでもいいし、教室でもいいし、オフィスでもいいし、住宅でもいいし、ショップでもいいかもしれない。その柔軟さが、「何でも包摂してしまうユルさ」を生む。
さらに、この「何でも包摂してしまうユルさ」をもう少し広い意味で言うと、「いろいろな価値観や行動を許容しそうな空間」という印象のことなのだと思う。この10〜15年くらいは、「カフェ」という言葉が同じ意味合いを帯びていた。
このお店で「いろいろな価値観や行動を許容しそうな空間」が実現されているのは、実際に複数のクリエイターが集まって、彼らが互いの価値観を許容し合いながらつくったためではないか。山崎さんだけでなく、アートディレクター、フラワーデザイナー、グラッフィックデザイナー、コピーライターが集結している(もちろん、なによりオーナーの強い価値観が起点にある)。そうすると、否が応でも、複数の価値観が混在するので、出来上がった空間には最初から多様性や包摂性が宿っている。多義的な空間になっている。

それにしても、東京では、こんなゆったりしたお店づくりは難しいのではないか。東京では賃料が高いから、もっと客席数を増やしたり客回転数を上げることに専念せねばならない。そうすると、巨大テーブルひとつで店を構成するわけにはいかない。このお店には、どこか横浜らしいゆったりした雰囲気が漂っている。
大テーブルゆえ、お客さんは横に並んで座る。人は、対面で座るより、横に並んで座るほうが、優しい気持ちなれる。
巨大なテーブルといえば、上海のホテル「The PuLi Hotel and Spa」1階の32mの巨大カウンターを思い出した。一本のカウンターが、チェックインカウンターやバーカウンターなど多様な機能を包摂しており、今日的な心地良いルーズさを感じた(「The PuLi Hotel and Spa」の詳しい写真は、「商店建築2010年6月号」に掲載されています)。この今日的なルーズさは、何かに似ている。堀江貴文氏やザッカーバーグ氏のような企業の代表がパブリックな場にTシャツで登場するルーズさに似ている。あるいは、1台のパソコンやスマートフォンが、遊びから仕事まですべての機能を担う、シームレスなルーズさに似ている。
http://www.shotenkenchiku.com/Monthly/bk_number/1006/the-puli.html
http://www.thepuli.com/en/

ところで、こうした巨大テーブルは「コミューナルテーブル」と呼ばれ、ニューヨークなどで多く見られると、あるデザイナーさんから聞いたことがある。先日、日本上陸したベルギー発のベーカリーレストラン「ル・パン・コティディアン」(港区芝公園3丁目)にもコミューナルテーブルがある。いくらコミューナルテーブルを設けても、日本では、見知らぬ客同士が会話することなんてないのでは、と思っていたが、「SAKAE」では、けっこうあるそうだ。「人とのつながり(店主と客のつながり、あるいは客同士のつながり)」は、最近の店づくりのキーワードの一つだと思う。その意味でも、このお店は、今日的だ。
自宅や会社の近くにこんなお店があったら、頻繁に通ってしまいそうだ。団塊世代の人たちの行きつけの小料理屋というのは、こんな感じなのだろうか。頻繁にフラッと立ち寄って、「適当にみつくろって」なんていうユルイ注文にも応じてもらって、店主や他のお客さんとおしゃべりしながら、飲んで食べて。
けれど、今の40歳代以下くらいの人はほとんど、行きつけの小料理屋なんて持ってないだろう。「サードプレイス」(家でも会社でもない第三の空間)といえば、スターバックスタリーズに独占されている。「SAKAE」みたいなサードプレイスがもっと必要だ。

「Cafe&Dining SAKAE」
神奈川県横浜市中区吉田町5-1第一吉田ビル2F
18:00〜23:00(L.O. 22:00)
http://www.sakae-dining.com

www.ykdw.org

六本木ヒルズ内にてGREEのオフィスを撮影。ゆったりとした贅沢なエントランスラウンジ。クリーンさとインテリジェンスを感じさせるIT系企業らしい素敵な空間。
 http://gree.jp

■大阪のイベント「建築レクチュアシリーズ217」が面白そうだ。
建築家の芦澤竜一(あしざわりゅういち)氏と平沼孝啓(ひらぬまこうき)氏がメインスピーカー。2ヶ月に1度のトークセッション。大阪に行くタイミングがあれば、ぜひ聴いてみたい。

ゲストスピーカー 藤本壮介(建築家)
メインスピーカー 芦澤竜一(建築家) 平沼孝啓(建築家)

日時  2011年 7月 29日(金) 18:00 開場 19:00開演 20:30終了 20:30-21:30 レセプション
会場  inter office (大阪市西区北堀江1-19-1 八光心斎橋 アルファロメオショウルーム2F)
    http://www.interoffice.co.jp/  (Tel. 06-6532-7001 / Fax. 06-6532-7002)
入場  一般 1,000円 学生 500円 (学生の方は学生証の提示を願います。)
定員  100名 (事前申込制・当日会場にて先着順座席選択)
申込  ホームページより受付 www.aaf.khaa.jp/217/  申し込み要 (7月28日(木)〆切り)
問合せ 特定非営利活動法人NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
    ウェブ www.aaf.khaa.jp  E メール aaf@khaa.jp