『幻影の書』

『幻影の書』(ポール・オースター/新潮社)を読む。

やや長い。殺人事件あり、死体遺棄あり、銀行強盗ありで、ニューヨーク三部作に比べて、だいぶドタバタした感がある。けれど、読んでよかった。

また、書くということや私とは何かと問うことについてもっと深刻に向き合っていたように思えるニューヨーク三部作に比べて、本書はラストに希望がある。だから、人がたくさん死ぬ割にはハッピーな印象を受ける。自分の生をあまり肯定できなかった主人公が、最後には、希望を持って生きるようになっている。

ところで、16〜17ページに、白黒サイレント映画について説明する描写があるが、この「映画」を「小説」に置き換えると、オースターの小説の特徴を的確に説明しているように思える。例えば、「ストーリーを語る気などはじめからない。それらは詩に似ている。夢を表現したようでもあり、入り組んだ精神の舞踏のようでもある」など。そんな世界が好きな方には、おススメの小説です。